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「ナル。女子の皆さんの邪魔しちゃ悪いから、ここはおとなしく帰ろうぜ」
「けどっ……」
「いーから、いーから。じゃあ、またな。比奈瀬」
「はーい、仲良く帰るのよー」
天城に無理やり背中を押されて、教室を出る瞬間。
「どうせなら、昔みたいに『なるちゃん』『ゆうちゃん』って呼び合っちゃいなさーい」
という声が聞こえてきたが、きっと空耳だろう。
「……あ? おい、帰らないのか?」
もう諦めて、一緒に帰るつもりでいたのに。昇降口とは逆の方向に天城が向かっているものだから、我慢できずに尋ねた。
「ナルぅ。俺さぁ、いいコト思いついちゃったんだよねー」
おい、嫌な予感しかしない笑顔を俺に向けるな。
「一緒に登下校するだけじゃなくて、もっとナルと親密になれるナイスアイディアが浮かんだんだよー」
そんなアイディア、要らんわ。さて、音楽でも聴くか。
「あーっ、スルーすんなって。なぁ、聞いてくれよぅ」
腕を掴んでブルブル揺らすな。音楽データは繊細なんだぞ。
「何だ、言ってみろ」
「写真部のナルさん! 俺の写真を撮ってくれ!」
聞くんじゃなかった。
「俺は、人間は撮らない」
「そんなこと言わずにさっ……ん? あぁっ!」
「な、何だ? おい。離せよっ」
急に大声を出したかと思ったら、両肩まで掴んできやがって。何なんだ。
「ナルっ。俺のこと、『人間』だと思ってくれてたのか?」
は?
「俺。今までナルに、けちょんけちょんにぶった斬られてきたからさ。てっきり道端のダンゴ虫くらいにしか思われてないと思ってて。でも、いま人間扱いしてくれたー」
アホか。
仕方ない。眼前で眉を下げてる天城を慰めてやるべく、重々しく言い放つ。
「お前は、ダンゴ虫じゃない」
「……っ。ナルっ、嬉し……」
「お前は、ナメクジ以下だ」
「ひどっ! そんな喩えに使ったことを、ナメクジに謝れ!」
そっちかよ!
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