2 織る黄葉(もみぢば)に…

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「おーい、見えてるー? ナールー!」 アホか、アイツは。プールの端から端っつっても、たかだか25メートル。見えて当たり前だろ。 「行っくよー!」 あぁ、はいはい。取りあえず、片手を軽く挙げ、見てることを伝える。 それを合図に、天城が飛び込み台に上がった。 すっと、両手が伸ばされ。一瞬の静止の後、しなやかに長身が跳んだ。 水中に数秒。 頭が浮かんだと思った時には、両手が豪快に伸び上がって水を掻く。 うねるようにキックしながら、全身を使い、滑らかに力強く進むそのさまは。 見ている者を、一瞬で魅了する。 ――相変わらず、美しいな。 正直、天城の泳ぎを見るのは嫌いじゃない。 幼稚舎からの幼なじみの間柄だ。小さな頃から、体育の授業で一緒になる度、見惚れたものだ。 まぁ、その頃は今のようにバタフライの選手じゃなかったけど。 嫌々つき合わされてる(てい)で、ここに来たが、本当は、久しぶりに泳いでる姿を見たかった。 なぁんて、アイツが調子に乗って、さらにウザくなるようなことは口にしない。 絶対に。 ところでアイツ、何メートル泳ぐつもりなんだろう。もう、5ターンくらいは軽く過ぎてるんだが……。 「秋田先輩!」 「……っ、何?」 不意をつかれて驚いた。 天城から視線を外し、背後を振り向けば。いつの間にそこにいたのか、水着姿の女子三人が、笑顔で俺を見ていた。 「先輩、私たちの写真も撮ってください!」 「え?」 「天城先輩に聞きました。水泳部の宣材写真を撮ってくださるから、見学されてるんだって。 だから、私たちが泳いでるところも撮影してください。お願いします!」 「……は?」 アイツ、俺がここにいる理由をそんな風に説明したのか。 馬鹿め。 取りあえず見学だけって言ったろうが。
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