2 織る黄葉(もみぢば)に…

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「あー、悪いけど。基本、人は撮らないんだ。今回は天城に頼まれて来てるけど、撮るかどうかは、今のところわからない」 ここは、正直に断っておこう。 「えー、そうなんですかー?」 「残念! 秋田先輩に撮ってもらって、自慢しようと思ってたのにー」 「来年の部員勧誘に使えたかも、なのにねぇ」 「でも、天城先輩のことは撮るかもしれないじゃない?」 「そっか! じゃあ、それを宣伝に……」 「――おい、お前ら。ナルに何してんだ?」 「「「きゃっ!」」」 「散れ! 去れ! ナルから、離れろっ」 いきなり現れた全身びしょ濡れの男が、女子三人の肩をペチペチと軽い音を立てながら(はた)き、俺の周囲から追い払い始めた。 「つめたっ!」 「痛い! 暴力反対っ」 「セクハラで、訴えてやる!」 「おー、勝手にしろ。お前らこそ、俺の許可なくナルに近寄るなよっ」 ――パシッ! 「痛っ!」 口々に天城に文句を言い、立ち去っていく女子たちに余計なひと言をつけ加えた馬鹿たれに、思わず手が出た。 「お前の許可こそ、要らんわ」 チッ。コイツを叩いたせいで、俺の手が濡れた。 「ナルっ、見ててくれた? 俺の泳ぎ!」 濡れた右手を軽く振ってると、俺に頭を叩かれたことは完全スルーの喜色満面な天城が、タオルを差し出しつつ寄ってくる。 「あ? あぁ、見てた。まぁまぁだったぞ」 ちょっと湿っぽいが、これで拭くか。 「ほんとか? じゃあ、写真っ……」 「お前。俺が見学してた理由、水泳部の宣材写真のためだって言ったのか?」 「あ。えーと、それは……」 タオルを返しがてら睨めつけて問うと、あからさまに目が泳ぎ出す。バツが悪くなったようだ。 「はあぁ……」 ひとつ息をつき、情けない表情の相手を真っ直ぐに見た。 「ここの設備なら、撮ってもいいぞ」 「え?」 部外者の俺がここに通いやすいよう、下手な言い訳をしたつもりなんだろう? どうせ。   「ここは、ソーラーシステムのドーム型温水プールだ。そこで年中泳げることを部のアピールポイントにすればいいんじゃないか?」 「ナル……」 「で。設備のついでに、お前を撮る」 「えっ、マジでっ?」 「……かもしれない」 「どっちだよ! 一喜一憂させんなよ。どっちだよぅ!」 ふふっ。それは、俺にもわからない。 取りあえず、しばらく、ここに通ってやる。仕方ないからな。
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