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「あー、悪いけど。基本、人は撮らないんだ。今回は天城に頼まれて来てるけど、撮るかどうかは、今のところわからない」
ここは、正直に断っておこう。
「えー、そうなんですかー?」
「残念! 秋田先輩に撮ってもらって、自慢しようと思ってたのにー」
「来年の部員勧誘に使えたかも、なのにねぇ」
「でも、天城先輩のことは撮るかもしれないじゃない?」
「そっか! じゃあ、それを宣伝に……」
「――おい、お前ら。ナルに何してんだ?」
「「「きゃっ!」」」
「散れ! 去れ! ナルから、離れろっ」
いきなり現れた全身びしょ濡れの男が、女子三人の肩をペチペチと軽い音を立てながら叩き、俺の周囲から追い払い始めた。
「つめたっ!」
「痛い! 暴力反対っ」
「セクハラで、訴えてやる!」
「おー、勝手にしろ。お前らこそ、俺の許可なくナルに近寄るなよっ」
――パシッ!
「痛っ!」
口々に天城に文句を言い、立ち去っていく女子たちに余計なひと言をつけ加えた馬鹿たれに、思わず手が出た。
「お前の許可こそ、要らんわ」
チッ。コイツを叩いたせいで、俺の手が濡れた。
「ナルっ、見ててくれた? 俺の泳ぎ!」
濡れた右手を軽く振ってると、俺に頭を叩かれたことは完全スルーの喜色満面な天城が、タオルを差し出しつつ寄ってくる。
「あ? あぁ、見てた。まぁまぁだったぞ」
ちょっと湿っぽいが、これで拭くか。
「ほんとか? じゃあ、写真っ……」
「お前。俺が見学してた理由、水泳部の宣材写真のためだって言ったのか?」
「あ。えーと、それは……」
タオルを返しがてら睨めつけて問うと、あからさまに目が泳ぎ出す。バツが悪くなったようだ。
「はあぁ……」
ひとつ息をつき、情けない表情の相手を真っ直ぐに見た。
「ここの設備なら、撮ってもいいぞ」
「え?」
部外者の俺がここに通いやすいよう、下手な言い訳をしたつもりなんだろう? どうせ。
「ここは、ソーラーシステムのドーム型温水プールだ。そこで年中泳げることを部のアピールポイントにすればいいんじゃないか?」
「ナル……」
「で。設備のついでに、お前を撮る」
「えっ、マジでっ?」
「……かもしれない」
「どっちだよ! 一喜一憂させんなよ。どっちだよぅ!」
ふふっ。それは、俺にもわからない。
取りあえず、しばらく、ここに通ってやる。仕方ないからな。
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