2 織る黄葉(もみぢば)に…

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* ――学園祭、二日前。 「こんにちは。比奈瀬さん、いらっしゃいますかぁ? あっ、兄さーん!」 通し稽古の休憩中、溌剌とした声が教室内に響いた。 「正親(まさちか)? 何しに来たんだ?」 全開の笑顔で手を振ってきたのは、中等科にいる弟の正親。 「ふふっ。チカはねぇ、比奈瀬さんに頼まれてぇ……」 「おっ、チカ。もしかして、あれが出来たのか?」 ん? 「ゆうちゃん! うん、もう自信作だよ。ゆうちゃんこそ、完成したの?」 「おー、俺もバッチリだぜ。何なら、合わせてみるか? こっち来いよ」 「わぁ、やったー! 見たかったんだぁ」 おい。何で、お前が正親とそんなに親しくしてるんだ? ……面白くない。 俺を無視して仲良く話すふたりの背中から、なんとなく視線を外した。 「おぉ!」 「ひゃあ!」 が、同時に、ふたりの驚く声が聞こえてきて、モヤモヤしながらも我慢しきれず、近づいていく。 「おい、何をそんなに盛り上がっ……」 「ナル! これ、すっげぇぞ!」 「兄さん、見て! これ、最高!」 「あ?」 ふたり同時に振り向きながら、揃って俺に突き出してきた物をまじまじと見る。 それは、紅茶色のロングヘアのカツラと、天平時代風の色鮮やかな衣装だった。 「これが、何なんだ?」 正親が差し出してきたカツラを手に取ったが、これが何だというのか。 「もうっ! もっと驚いたり感動したりしてよ。そのカツラは、ゆうちゃんが作ったんだよ?」 「ふーん…………え?」 「あははっ。反応遅いよ、兄さん。すっごいでしょ? まるでプロの手仕事だよね。チカもびっくりしたもん」 「あ、あぁ。確かに」 これを本当にお前が? 凝ったヘアスタイルのカツラを手に、無言で問いかけを視線に乗せて天城に向ければ。恥ずかしそうな、それでいて誇らしげな表情が返ってきた。 「でね。この衣装は、兄さんを最も美しく見せられるよう、チカが頑張ってみましたー! 比奈瀬さんの希望デザイン画に、さらにヒラヒラとキラキラを追加してみたよー」 どう? とでも言いたげに、俺を覗き込んでくる愛らしい鳶色の瞳。 得意の裁縫で俺の役に立てることが誇らしくて堪らないのだと、その目の輝きが伝えてくる。 俺が喜ぶと信じて疑わない笑顔に、白旗を掲げた。 「ありがとう。ふたりとも」 メインは正親だが、取りあえず天城にも礼を言っておくことにした。
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