2 織る黄葉(もみぢば)に…

9/10
前へ
/47ページ
次へ
「――なぁ、ナル? そろそろ、イイんじゃね?」 「何のことだ」 「だからぁ、俺の写真だよ。こう、カッコよく泳いでるところをさ。パシャパシャって激写してさ……」 「ちょっと、そこどけ。邪魔だ」 「えぇっ? プールの写真なんだから、水泳部員が一緒に写ってもいいじゃん!」 「お前は、要らん。無駄にデカすぎて影が写り込むから、俺の周囲10メートル以内に近づくな。あと、息も止めとけ」 「ひでぇ。息をするのは許してくれよっ」 稽古の後、その日も俺はプールに来ていた。カメラを持って。 ひとしきり泳いでスッキリした表情で戻ってきた天城が、いつものように無駄に俺の周りをウロチョロする。 そして、いつも通りの会話が繰り広げられる。 やり取りに疲れてプールサイドのベンチに座ると、いそいそと隣に陣取ってくるものだから疲労は二倍だ。 ウザいから泳いでこいよ。 まぁ、それを言うのも疲れてきたから、もう隣に座っててもいいが。 「いよいよ明後日かぁ、本番。俺、緊張してきたー」 「台詞トチったら、比奈瀬に末代まで祟られるんじゃないか? お前」 「うわ、そんな有り得そうなこと言うなよぉ」 「……なぁ、天城。あのカツラ、本当にお前が?」 比奈瀬の名前を出され、めちゃめちゃ嫌そうな顔をした天城に、気になっていたことを尋ねてみる。 「あ、うん。ナルには、あの髪色が絶対似合うと思ったんだけど。あ、でも嫌だった? 気に入らなかったか?」 「いや、そうじゃなくて。マジでお前が作ったのか? お前のお母さんじゃなく?」 天城の家は美容室を経営してて、コイツのお母さんは色んな大会で受賞をしてる、腕のいい美容師だ。 「母さんじゃないよ。カツラの仕入れはしてもらったけど。あのセットは、俺がしたんだ」 「お前って、かなり器用だったんだな」 「うわぁ。それ、褒め言葉だろ? めちゃ嬉しいんだけど」 「あ、まぁな」 他の人間なら嫌みにとられてしまう俺の言葉を素直に『褒め言葉』と受け取られて、一瞬どう返そうかと迷った。 が、戸惑いながらも、そのまま認める。実際、その通りだし。 たまには、いいだろう?
/47ページ

最初のコメントを投稿しよう!

441人が本棚に入れています
本棚に追加