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「――ねぇ、お願い! この通りよ。姫役、引き受けてくれない?」
「頼む! 頼んますっ!」
翌日になると、うるさいのがひとり増えていた。
澄み切った秋の蒼天と、ひつじ雲。爽やかな光景をバックに、それとは真逆の暑苦しさ全開の男女が、俺に迫ってきている。
「はぁぁ……何で、女子の君までが俺に頼んでくるのかな?」
「それは、ナルが姫役に適任だかっ……ぐふっ」
「少し黙んなさいよ。天城」
唾を飛ばしながら前のめりに割り込んできた馬鹿の口を押さえつけたピンクフレームの眼鏡女子は、ニタリと笑みを見せた。
「ちょっとは、話、聞いてくれる気になったのかしら」
目を見開き、笑顔でぐっと顔を近づけてきた同級生の女子は、比奈瀬。
馬鹿を黙らせてくれたのは有り難いが、この笑顔が何だか怖い。
嫌な予感しかしないぞ。
「見て? 脚本よ。今回の学園祭のために、何日も徹夜して書き下ろしたの」
パシッと机に置かれた冊子。
表紙には、『KAGUYA』とタイトルがついている。
コレは、まさか……もしかして?
「これね。竹取物語と羽衣伝説をミックスさせた私のオリジナル作品で、主役の……」
「……っ、ブハッ! てめぇ、比奈瀬! 俺を窒息死させる気か!」
あ……静かだと思ってたら、比奈瀬に息を止められてたのか。
「それでね。もう気がついてると思うけど、あなたには『天女カグヤ』を演じてもらいたいのよ」
「おい比奈瀬、俺の命懸けの生還をスルーすんな。
てか! 俺の姫、イコール天女は、ナルしかありえねぇから!」
……何だ、このカオスな会話は。
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