1 青雲(あおくも)の…

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「シナリオの内容をざっくり説明するわね。ひと言で言っちゃうと――。天界から地上に舞いおりて、水浴びしてるカグヤのあまりの美しさにひと目惚れし、羽衣を隠してしまったミカドとの山あり谷ありの壮大なラブストーリーなの」 何だ、それ。ひと息に言い切るとか、ざっくりすぎるだろ。 けど、微妙にわかりやすくもある。 「カグヤもね。最初は嫌々なもんだから、我が儘放題。入手困難なプレゼントをねだってはミカドを振り回した挙げ句。だんだんデレて、ついには両想い!」 あー、めちゃめちゃ御都合主義だな、その進行。 「でも、長く地上に居すぎたために、カグヤは病にかかってしまうの。命を長らえるには、天界に戻るしかない。なのに、ミカドは羽衣を返さない」 いや、そこは返せよ。ひどいヤツだな、ミカド。 「わかる! 俺、わかる! そんな非道なことするくらい、カグヤに惚れきっちゃってんだよ。ミカドは!」 天城……お前。何、ミカドに感情移入してんだ。 しかも、目ぇ瞑ったドヤ顔で、うんうん頷くな。激しく気持ち悪いぞ。 「で、ここに居る天城はね。中身はともかく、見た目だけは無駄にイケメンだから、ミカド役に指名したの。それでっ!」 バンっと、俺の机に比奈瀬の両手が振り下ろされた。 「お願い、秋田くん! カグヤ役を引き受けてください! この通りです。あなたが適任。あなた以外にカグヤは務まらないっ」 比奈瀬の頭が、勢いよく下げられた。ポニーテールが、眼前でぐいんっと揺れてる。 「おっ、俺からも頼んます。お願いです!」 いや待て。お前までが、そんなに必死になる意味が、全然分からん。 「高2の今年が、高校最後の学園祭になるのよ? この作品で、どうしても優勝したいのよ。だから、お願い!」 「……あー、比奈瀬。ちょっと聞きたいんだけど。何で、俺? どう考えても、男の俺よりも女子のほうが適任なんじゃないかな」 「女子じゃ駄目なの。駄目なのよっ。だってカグヤは、女装も似合う超絶美少年なんだもの!」 「え……」 「この『KAGUYA』はね! 古代を舞台にした、“ 一大スペクタクルBLファンタジー ”なのっ!」 「……」 鼻息荒く言い切った比奈瀬の紅潮した顔とギラギラした目つきをまじまじと見つめ、口を開きかけた。けれど、衝撃が大きすぎて声が出ない。 女装? 女装って言ったか? いや、それよりも! BL! だとっ?
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