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よし、ここでキッパリと断ろう。断るんだ、俺。
「比奈瀬、やっぱり俺にはできないよ。主役なんて無理だ。誰か……そうだ。他の女子に男装してもらうって案はどうかな?」
お、コレは我ながら名案じゃないか。
「はあぁ……そう。残念だわ」
おぉ、諦めてくれたのか?
「本当に残念。これを出す事態にまでなるとはね」
ん?
――バシッ!
台本の横に、紙の束が勢いよく叩きつけられた。
何だ? これ。
「――秋田くん」
すーっと無表情に変化した比奈瀬の声が、その場に重々しく響く。
「これはね。クラスの女子全員の署名入りの推薦状です」
「え?」
「『秋田成親くんをカグヤ役に推薦します』という一文と署名を、自筆で書いてくれてるの」
――バシッ、バシッ!
「私を含めた、クラスの女子全員が、自ら書いてくれたのよ!」
駄目押しのように、何度も机に叩きつけられる紙の束。
「秋田くん! あなたが、カグヤよっ。
これは、“ クラスの総意 ”で、もうとっくに決定事項! になってることなのっ!」
紙束と机が奏でる耳障りな音とともに、死刑宣告が響いてきた。
ハ メ ら れ た……!
「さて、早速、今日の放課後から打ち合わせとお稽古に入りますからね。秋田くん? 逃げないでね? 絶、対、にっ」
俺を地獄に突き落としてから、恫喝を込めた笑顔で念押しし、比奈瀬が背を向けた。ポニーテールを揺らして颯爽と去っていく。
台本だけを机に置いたまま。
「あー、あのさ、ナル? 大丈夫、だよ?」
がっくりと、力なくうなだれた俺に、天城の遠慮がちな声がかかった。
「ナルはさ。ただ俺とイチャイチャして、ラブラブな恋人になってくれればいいだけなんだからさ! 何も心配すんなよっ」
「あははっ」という乾いた笑いとともに告げられた、何の救いにもならない慰めの言葉が、鼓膜を撫でて消えていく。
「今日から、稽古? しかも女装美少年役で……その上、天城と恋人設定、だと?」
クラリと眩暈がし、気が遠くなりかけた。
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