2 織る黄葉(もみぢば)に…

2/10
前へ
/47ページ
次へ
「ストーップ! 秋田くん! 顔っ。その顔、何? 何とかしてよ」 何とかって……。 『その顔、何』とか失礼だな。俺は、これが通常モードなんだが。 「天女が、そんなしかめっ面しちゃ駄目! この場面は、麗しく静かに微笑んでるだけでいいのよ」 「俺なりに天女としての振る舞いで演技してたつもりなんだけど」 「嘘よ! とんでもなく気持ち悪いモノでも見たような。『オェッ』って声が聞こえてきそうな、そんな表情だったわよ」 バレてたか。 「仕方ないじゃないか。至近距離で、この顔を見なきゃいけないんだぞ? 『麗しく静かに微笑む』なんて、絶対無理だ」 「えぇっ? 何ソレ、ひどっ! ナル、ひどっ!」 ビシッと、目の前の天城を指差して正直に答えれば。頬に両手を当てた天城が、ムンクの叫びのポーズで腰をくねらせた。ほーら、気持ち悪さ二倍だ。 「おかしいわねぇ。あなたたち、ビジュアルだけなら完璧なキャスティングのはずなんだけど……うーん、どうするかなぁ」 親指をこめかみに当てて唸った比奈瀬が、その場で何やらブツブツと呟き始めた。 よし、今のうちに新鮮な空気を吸おう。 「天城、離れろ」 稽古の間中、ずっと掴まれていた手首を叩き落とし、窓を開けた。 外の風を招き入れて、大きく深呼吸。それを何度も繰り返して、気分転換を図る。 そのついでに、校庭の向こう側に見える城趾(じょうし)公園の紅葉を見やった。 もうかなり、葉が落ちてきてる。 祥徳学園の学園祭は、例年なら11月に行われるんだが、今年は海外への修学旅行が渡航先の都合で秋になった為に、12月初旬に変更になった。 演劇発表の体育館は暖房つきだが、中庭に設置する模擬店は寒いかもしれない。 当日のことを思いながら、ひやりと冷たい秋風が、大銀杏から次々と葉を舞い散らしていくさまを目に映す。 紅葉だけでなく、黄葉も『もみじ』と読ませるとは、 日本語というものはなかなか風雅なものだが、地面に落ちた色は何だか物悲しい。 「あーあ。冬の始まりって物悲しいなぁ。なぁナル?」 「……お前。何、してる?」 「え? 城趾公園の紅葉をナルと惜しんでるんだけど?」 「俺の手に手を重ねてくるな。背中をくっつけるな。肩に顎を乗せるな。暑苦しい!」 「えー? どれかひとつは許してくれよぅ」 「アホかっ」 「うっ!」 馬鹿たれに肘鉄を食らわせ、やっと自由になれた。
/47ページ

最初のコメントを投稿しよう!

441人が本棚に入れています
本棚に追加