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――あぁ、イライラする。
『KAGUYA』の稽古に入って、三日目。
本読みの後、比奈瀬による各シーンの演技指導が始まった。昨日よりも厳しく。
当たり前だが、駄目だしの連続だ。
ミカド役の天城が、比奈瀬の言う通りにぴったりとすり寄ってくる。それを、俺が避ける。ついうっかりだが。
その度にNG。やり直しだ。
何なんだ、アイツは。
気色悪くないのか? 設定とはいえ、男同士で手を握り合ったり見つめ合ったりするんだぞ?
比奈瀬も比奈瀬だ。
演技指導してる間に、『ここは見つめ合うだけじゃなく、頬に手も添えましょう。そして、カグヤは唇を半開きにして隙を作る』とか言い出して、どんどん台本に余計な描写を増やしてくれてるし。
全く、信じられない。
しかも天城のヤツ。それをスルッと受け入れて、真面目に演技するとか。
そこが、一番理解に苦しむ。
つーか、男なのに天女なんて、そんなトンデモ設定をどう観客に納得させるつもりなんだ?
おまけに俺たちの稽古が始まると、周囲をぐるっと女子たちが囲んでくる。その上、ものすごい圧力で四方からガン見されるんだ。
恐怖を感じるほどの熱い眼差しに囲まれて演技する俺の身にもなってくれ。
俺の平穏な日常は、どこへ行ったんだ?
「――ちょっと秋田くん、聞いてた? 今の話」
「え?」
「もう! しっかりしてよね。
もう一度、言うわよ? 今日から、秋田くんと天城は一緒に登下校すること!」
「は?」
何だって?
「これは、役作りの為の演出家命令よ。あなたたちには、一緒に過ごす時間を増やして、今より親密になってもらいます」
「なっ……おい、比奈瀬!」
なんだ、そのいきなりの要求は。
「お互い、幼稚舎からの幼なじみなんだし。せっかく同じ町内に住んでるんだから、これを利用しない手はないわ」
それは今、関係ないだろう!
「取りあえず、今日の稽古はこれで終わり! 衣装も作れない役立たずは、とっととラブラブに帰ってちょうだい。私は忙しいの」
「おい、待て……」
「ハイハーイ! りょーかーい」
両手でシッシッと、ぞんざいに『帰れ』と手ぶりで表現されたが、ここは譲れない。
なのに、食い下がって抗議しようとした俺を、天城が制してきた。
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