第1章

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1998年、冬――― 黒くて大きな瞳が印象的だった。 闇のような黒い瞳と髪。それに黒い服が、肌の白さをいっそう際立たせている。 「お悔み申し上げます」 その幼い瞳は、 父・雄一郎のことを睨み付けていた。 幼い少女に、不覚にも?女”を感じてしまった。 降りしきる雪を溶かさんばかりの赤い恨みの炎が見えた。 2012年、夏――― 雄一郎は会長となり、昭雄は32歳で社長に就任していた。 あの少女はどうしているだろう。 桐生によって人生を狂わされた少女。 父と違って人に恨まれることに慣れていなかった昭雄は、 時折あの片岡詩織のことを考えていた。 調べさせたところ、親戚の倉木という家族に引き取られたらしい。 気まぐれで、「倉木詩織」でネット検索をかけてみた。 <T大主席入学、才色兼備の倉木詩織> <T大ミスコン優勝美女・倉木詩織とは> <倉木詩織ファンクラブ> 「綺麗な子供だったが、これはまた……」 そこらの女優かモデルよりも綺麗だ。 生い立ちのせいか寂し気な目元をしているが、 友人に囲まれて笑っている写真もあった。 きっと過去のことは忘れているだろう。 昭雄は内心ほっとしていた。 「社長、失礼します」 秘書の宮野浩二(みやのこうじ)が新入社員面接用の資料を持ってきた。 「ああ、もうそんな時期か」 「今年はすごい子がいるって話題ですよ」 「へえ、どんな子だ」 「これです。倉木詩織」 「―――……倉木、詩織?」 「え?もしかしてご存じですか?そうですよね、結構有名ですもんね。 たぶん日本の女子大生の中では一番有名かもしれません」 心臓が締め付けられる思いだった。 資料の写真には、たしかにあの少女がいた。 ネットで見つけた写真の瞳とは違う、13年前と同じ、あの赤い炎を宿した瞳だ。 「まあ、当然ほかで内定出るでしょうけどね。こういう子はマスコミが欲しがるでしょう。 女子アナになるために生まれてきたような子だ」 偶然か。いや、そんなはずはない。 この眼差しは、この強い眼差しは、まっすぐ自分を見ている。
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