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捕まれた右腕を振りほどこうとするが力が強く振りほどくことは出来なかった。
「それに良いのかなぁ。またアルバイト生活に戻るの?親御さんは何ていうかなぁ?仕事内容が気に入らなかったから初日で辞めてきた…って言うの?」
痛いところを突いてくる。
面接が終わり店を出た瞬間母親に電話をした。
最初は高い給料を疑っている様子もあったが、最終的には喜んでくれた。
お父さんにも報告しなくちゃねぇと言った母親の姿を思い浮かべるとなんとも言えない気持ちになった。
「わかりました!やります」
今度は振りほどくことに成功した。
「でも今日の仕事を見てやっぱり無理だと思ったら辞めますから!」
「わかったわかった。大丈夫だよ。」
頭を触ろうとする店長の手を思いっきり叩き落とした。
「よかったぁ。いきなり大きな声を出すからビックリしちゃったよ!
こうちゃんの仕事ぶりはカッコいいからよく見てた方がいいよぉ」
甘ったるい声で紫乃さんが言った。
「よし!始めるか!今日も頑張るぞー
エイエイオー」
店長、紫乃さんが張り切って右手を上げる。楓君も小さく手を上げている。
ダッサ。
ズルッと肩を落とした。
店長と紫乃さんの視線が痛い。
そっと右手を上げると、満足したのか2人とも頷きながら笑っている。
お店は通常通り営業された。
お客様もそれなりに入り繁盛してるんだなぁ。と感心した。
楓君がテキパキと料理を作る様子を横目で見ながら、皿洗いやウエイトレスの紫乃さんに料理を渡したりしていた。
ーー凄い
いくらなんでもこの量を一人で作る技術には目を見張るものがあった。
色とりどりに盛り付けられた料理は完璧以外の何物でもない。
「来た来た!」
紫乃さんが小声でそう言った。
どうやら依頼人が到着したようだ。
「見て来いよ」
楓君がそう言った。
「店長の仕事見たいだろ?皿なら間に合うから行って良いぞ」
「でも…」
「料理しながら皿洗いなんて出来ないからな。辞められたら俺も困るんだよ。」
フライパンを煽りながらぶっきらぼうにそう言った。
「ありがとうございます!じゃあ行ってきます。」
頭を下げた。
「終わったら急いで皿洗いしますね。」
と言って厨房の扉を開けた。
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