店長のお仕事

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紫乃さんの言った通り杉下は言葉を発することが出来なくなっていた。 プライドはズタズタになっただろう。 やっと吐き出した言葉が「本当かよ…」だった。 後もう一息というところで異変に気付いた。 「店長!美奈子さんの様子がおかしいです。」 美奈子は顔面蒼白で胃の辺りをさすりながら口元にハンカチを押し当てている。 『美奈子大丈夫か!?』 店長がそう言うとガタッと音を立てて鈴木が美奈子に駆け寄る。 杉下は呆然とその様子を見ている。 私も慌てて予約席へ向かうと「トイレ行ってきたら?」と鈴木が美奈子に言っている。 「そうするわ。」と言って美奈子が立ち上がった為付き添った。 『あなたが美奈子さんをここまで追い詰めたんだぞ。』 と低い声で店長は言った。 『嫌だったんだよ!俺だって何度も浮気をされてるのにあの女にしがみつく理由なんてなかった。 ただあいつの携帯を見たときに怒りが込み上げてきた。プライドが許さなかっただけだったんだよ。』 店長に向けられたであろうその言葉に違和感を感じた。 なんだろう?初めから何かが変だと思っていた。このザワつく感じ… 美奈子さんがトイレから出てくる。 口元が濡れている。温かいタオルを渡すと「ありがとう」と小さな声で言った。 席に戻ると持っていたハンカチを鞄にしまった。 持ち手の下の辺りが何かに擦れて薄くなっている。 ピンと来るものがあった。 「お薬をお持ちしましょうか?」 そう美奈子に聞くと 「ダメ!あ……いえ、そんな大したことではないから」 と慌てて美奈子が答えた。 疑惑が確信に変わった。 【靴、ルイボスティ、突然の吐き気】 カウンターに戻り深呼吸をする。 「店長…恐らく美奈子さんは妊娠しています。」 マイクに向かって話しかける。 店長を見ると気がついていたのか小さく頷いた。 しかし次の言葉を聞いたときは目を見開き驚いた表情をした。 「浮気相手は鈴木大地です。」
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