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煙草屋でもらった赤いライターで火を点け、
仁は煙を吐き出した。
アズが雪かといっていたが、
次第に冷え込む気温を感じて、雪が降ってもおかしくない季節だしなとぼやく。
「そろそろか」
硝子のテーブルに置かれた灰皿で煙草をつぶして立ち上がる。
静かに玄関前につけられた一台の黒塗りの車から佐倉が降りてくる。
反対側のドアを開け、
忍が降りてくるのを待っていた。
深々と頭を下げる佐倉に、
忍が微笑んだ。
二段ばかりの階段を降りて仁の姿に目をとめる。
「え? 仁先生? どうしたんですか、
アズは」
慌てた声で黒いコートに足袋を履いた忍が問うた。
「朝メシ作ってるよ。
お前を迎えにきてやったんだ」
「また……雪が降りますよ」
アズと同じこと言いやがると、
心で思いながら先を歩いた。
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