過去と現在と傷痕

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ーあれから三年の月日が経った。 これは夢だと、紫乃は思った。 いつもいつも抜け出せない負の連鎖におびえて、囚われて動けなくなっていた。 夢の中だと自覚はある。 それでも、叶わない想いと後悔が傷跡を強く強く抉る。 現実との境を見失なう。 彼の手を掴もうとしても、好きだと伝えようともがいても 彼は私を好きだという思いを示しておいて、最後には否定的に私を拒むのだ。 「無能め」と 泣いても喚いても、無駄だった。 既に起きた事実はもう戻る事なく、後悔だけが残る。 ならいっそ感情も全て捨て去り、何も感じない無感動な人間になってしまえばいい。 全てを最初から諦めてしまえば期待もしなくていい。 行き場のない感情が全て無感情に変わりもう何も感じなくなっていく。 それでも涙は留まる事を知らず、勝手に流れ落ちるのだ。 目を覚ます。 涙の雫が滴り落ちる。 私は異界の家のベッドで寝ていた。 でもこれもまた夢の中なのだ。 肉体は現実世界にある。 ぼやけた視界が開けると自分の顔の間近でアキはジーッとこちらを眺めていた。 アキの瞳の中に自分の寝起きの顔が写る。 綺麗な茶色の眼孔。 「・・・・・ん・・?」 「やぁ、おはよ。」 「・・・・・・・・・・。なんでこんな間近で見てるの、人の寝顔。」 アキは私の涙をさっと拭う。 私はゲッと思わず呻いた。 完全に覚醒する。 咄嗟に布団で顔を隠す。
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