其々の思い

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紫乃は深い眠りから目を覚ます。 まだ日は昇りきっていない朝方だった。 身体が重く怠い。 辺りを見ても穿は見えなかった。 (凛さんのところに行ったのね…。) ボーッとしていると昨日の己の思いが反芻される。 紫乃は家に帰るまでの間、泣きながら沢山の事を考えた。 何が一番いいのかを。 穿には自分の暗くて複雑な家事情をこれ以上見せたくなかった。 母親に殴られ、蹴られる姿を見て減滅したに違いない。 自分が醜くて情けなく感じた。 誰も皆私みたいに不幸で恵まれない者がいるのだろうか。 そう思わずにはいられなかった。 穿が視えたあの瞬間、予想以上にカッコよくて優しくて守ってくれて。 嫌でも彼を意識してしまう。 紫乃は異性として好きになってしまった。 だからこそ、私の着替えとか風呂とかトイレとか色々なデリケートな部分を考えたらキリがないくらい、見られたくないところを意識し続けるのが嫌だった。 穿に側にいて欲しい でも側にいると落ち着かない。 恥ずかしい 好きな人に、こんな自分を見られたくない…。 矛盾を抱え更に深く悩みの迷路にはまり込んでいく。 でも何よりも穿に怪我をして欲しくなかったのが本音だった。 穿にあのまま守られ続けたら彼がボロボロになってしまう気がして怖くなった。 それだけではなく、きっとあのまま守られていれば紫乃は更に穿の事を好きになってしまいそうで嫌だった。 (穿は精霊で、私は人間。 私は歳をとり、老けていく。) でも穿はあの姿のままだ。歳もとらない。 カッコイイとは思ったが、好きになる理由は顔だけでは無い。 自分の側にいて守ってくれていたことに対して、愛に飢えている自分が特別な感情を抱くのはそんなに遅くない気がしてしまう。 そんなのダメに決まってる。 穿だってこんな最初から全てが駄目な自分を好いてくれる筈がない。 身体をゆっくりと起こす。 身体中が痛い。 アザが幾つかある。 袖や裾をまくらなければ他人からは見えなさそうだ。 今日は祝日なのだが、美術部の集まりがある為、お風呂から出るとそのまま制服に着替える。
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