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『自分より、他人の心配をなさるとは。話の通り、優しい方なのですね』
守護天使の言葉に、目を伏せる。僕が優しいはずなんてないんだ。でなければ、敵に手を貸すなんてこと、するはずがないんだから。
『だからこそ、聖天使様もあのような処罰を決定されたのですか。……ヒトが悪い方です、本当に』
「えっ……?」
守護天使が最後に何を呟いたのか聞くことができなかったが、それを問おうとする前に彼女は口を開いた。
『今回私がここに来たのは、そんな貴方の処罰に対して、詳しく説明するためです。導師』
ようやく本題に入った守護天使は、じっと見つめる僕の目を真摯に見つめながら言った。
『天界は今回の事件で、地上に干渉をし過ぎました。そこで今後は、地上に対する秩序を欠くと判断された事件を、天使ではなく執行者に解決させるということになりました。それが、貴方に科せられた処罰です』
つまり、早い話が天使の代わりに事件を解決しろということである。地上の事件を人間に解決させれば、天界が秩序を乱すこともない、ということだ。
『しかし今回の刑を受け入れれば、代償として記憶を預かることになります』
「き、記憶、ですか……?」
『そうです。貴方は組織の知に精通するだけでなく、人間である以上に古の知に精通しています。貴方の負ってきた宿命を考えれば、仕方のないことかもしれませんが』
そう、常人ではあり得ないほどの知を僕は持っている。古から受け継いだ、宿願を果たすためのもの。
しかしその知が、今回の事件の一端になってしまったことも事実だ。
そういう意味では、天界からの条件提示は正しい。
正しいけど……
「それは……、彼女のことも忘れる、ということですよね?」
僕の静かな問いに、守護天使は目を伏せた。どうやらそうらしい。
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