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『貴方に、辛い選択を強いていることはわかっています。ですが--』
「わかりました。そんな条件で良いなら、受け入れます」
僕の返答に、守護天使は驚く。しかし僕も、忘れたくない気持ちはある。それでも……。
「僕の罪が、許されるものでないのはわかっています。その罰として記憶を取られてしまうのなら、それは仕方ないことです」
『ですが……』
「……僕はかつて、記憶喪失になったことがあります。あの時は、自分が何者で、どういう人間だったのか、知りたい反面知るにつれて恐怖もありました。でも今の僕には、支えてくれる家族がいます。そして、大切な人も。……もしまた記憶をなくすことになったとしても、その繋がりや想いまで消えることはないと、信じています」
こうして僕は、償いの代償として記憶を差し出した。
いつか償いの終わりが訪れた時、記憶は必ず返すと、儀式の前守護天使に告げられて。
目覚めた先、僕は今の僕のままなのか、それとも別人の僕になってしまうのか、それはわからない。
もしかしたら、かつて記憶喪失になっていた時の僕に戻るのかもしれない。
そうなってくれたらいいな、と僕は薄れる意識の中で静かに願った。
これはひとりの罪人の終わりの物語。
そして、新たな導師の始まりの物語。
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