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知らぬ顔でお弁当を食べ終わり、ケースに箸を戻している双月くんにそう言葉をかけると、彼はにっこりと笑って。
「作ってくる日は前日には教えてね。家政婦さんに、弁当作らなくて良いって伝えなくちゃいけないから」
まさか双月くんまでそんな事を言い出すなんて思わず、絶句する。
しかも、「唐揚げがいい」とか「玉子焼きは絶対」なんて勝手に話を進めている。
わたしは反論する気も失せて溜息を吐いて、双月くんがお弁当箱を鞄にしまうのを見ていたら、鞄の中からヒラリと1枚の用紙がこぼれ落ちた。
何気なくそれを拾い、四つ折りにされたそれを広げて見ると、凄い勢いで奪い返された。
双月くんの顔を見ると、珍しく焦ったような気まずい顔をしている。
「双月くん、それ……」
「誰にでも得意不得意はあるものだよ」
「……そうね」
その用紙は、今日あったテストの解答用紙だった。驚いたのは、彼の点数が予想以上に低かったからだ。
彼は、成績優秀だと思っていたから、意外だった。
「ははっ、怜、だっせー」
「うるさいよ」
「英語だけは俺の方が成績いいもんなー」
「英語だけ、な」
お腹を抱えて笑う尾上に対して、双月くんは若干頬を赤くして言い返している。
どこからどう見ても年相応の少年同士のやり取りだ。
そこには、わたしが今まで見てきた双月くんとは違う双月くんがいた。
これが、今の彼が、普段、尾上が見ている双月くんなのかもしれない。
わたしには、その姿がとても新鮮に見えた。
午後の授業も終わり、放課後になると、わたしは急いでB組へと向かった。
別に慌てなくても双月くんが逃げる事はないのだけれど、これはもう習慣としか言いようがない。
B組の教室に入ると、いつもの席に彼はいたけれど、尾上が見当たらない。
わたしはいつも通り、双月くんの前の席の椅子を拝借して、そこに座った。
「尾上は?」
「担任から呼び出し食らって職員室に行ってるよ」
「良く呼び出されるわね」
「大輝は良くも悪くも目立つからね。今日は5限目に爆睡してたのが原因だけど」
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