嘘吐男子という人間

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「そんなの、貴方を利用してるだけじゃない……」 「俺は、人が必死になって吐いている嘘を嘘だと指摘しないだけの教養を持っているんだよ。……君たち探偵と違ってね」 「何故そこまで嘘のために献身的になれるの?」 「……嘘のない世界は、残酷すぎるからだよ」 双月くんの目に翳りが浮かぶ。何が彼をこんなにも嘘に縛り付けているのだろう。 気まずい沈黙が辺りを支配した頃、タイミングを見計らったかのように尾上が教室へと戻ってきた。 「うわ、お前らまた一緒か。園崎も良く飽きもせず毎日来るな」 「目を離してる間に何かされたら困るもの」 「嘘でも良いから『少しでも双月くんの側にいたいの』って可愛らしい返事しとけよ。そんな風に言われて喜ばない男なんていねぇから、油断させるには効果抜群だろ」 「双月くんにそんな嘘が通用するとは思えないわ」 「馬鹿だな、嘘だと分かっていてもその気になるのが男の性ってもんだ」 双月くんの場合、わたしが嘘を吐いた事を面白がって色々と利用してきそうだ。 尾上が「よっこらせー」という掛け声と共に荷物を持つと、双月くんも席から立ち上がる。 そして、ふと思い出したように私を見つめた。 「そういえば、俺が仕掛けた嘘、暴けたかな?」 「え?」 先程の女の子とのやりとりではないのか、と首を傾げると、彼は嬉しそうに笑った。 「そうか。じゃあ、今日の勝負は俺の勝ち」 そう言って、彼はさっさと教室を出て行ってしまう。 呆然としていると、尾上が苦笑しながら言葉を発した。 「怜の家ってさ、アメリカに別荘があって、あいつ子供の頃から夏休みとかそこに行って現地の子供たちと遊んでたんだよな」 「それってつまり……」 「英語は大得意って事。でも、本人はいつでも取り返せる教科だからって、わざとスペル間違えたりしていつも赤点ギリギリのラインで調整してるみたいだけど」 「な……っ!?」 「まぁ、今回の嘘は難易度高かったと思うぜ? 普通、嘘吐いて成績下げるなんて考えねぇもんな」
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