Liar

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その日は、いつも通りに登校した。 いつもと違ったのは、昇降口で知らない男子に声を掛けられた事だった。 「そ、園崎さん!」 「?」 声の主を見ると、見覚えのない男子。 去年も今年も同じクラスにはいなかったはずだ。 「何?」 「えっと、俺、C組の溝口 拓哉(みぞぐち たくや)って言うんだけど」 「それで?」 「園崎さんって、嘘吐きに興味があるんだって聞いて……」 その言葉に、初めて真っ直ぐ彼を見つめた。 「それが?」 「俺、嘘を良く吐いてて、質問とかあるなら俺に――」 「話なら双月くんとしてるから平気よ」 少なくとも、この学校に双月くん以上の嘘吐きなんて存在しない。 そう思ったのだが、彼は慌てたようにカードを取り出した。 「こ、これ知ってる!?」 「何?」 受け取ったカードは、黒色で赤い文字で「Liar」と書かれている。 見た事のないものだ。 材質はしっかりしているし、裏にはQRコードまで付いている。 「何のカード?」 「園崎さんは、『Liar』っていう嘘吐き集団の事知らないの?」 「……知らないわ」 「これは、そのメンバーの証。特別な嘘吐きって証拠なんだ!」 彼は、秘密を打ち明けるように大げさな声で言ってのけた。 「へぇ。……ありがとう。双月くんに聞いてみるわ」 「えっ、ちょ、園崎さん!?」 彼にカードを押し付けて、踵を返すと早歩きで教室へと向かった。 荷物を教室に置いてB組に行くと、双月くんは尾上をあしらいながら文庫本に視線を落としていた。 「双月くん」 「おはよう、園崎さん。……どうしたの、そんなに慌てて」 普段通りに振る舞ったつもりなのに、なぜ彼には分かってしまうのだろう。 それこそ、観察眼が鋭いという事なのだろうか。 「貴方、『Liar』ってグループを知ってる?」 「そりゃ、もちろん。ウソツキの間で知らない人間はいないんじゃないかな?」
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