プロローグ

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教室の戸を開けたら、そこには予想通りの光景が広がっていた。 静寂に満たされた教室。 窓側の1番後ろの席。 夕日に照らされた、1人の男の子。 戸が開いた事に気がついたのか、彼の視線がこちらを向き、わたしを捉える。 それを確認して、わたしは歩きだした。 そして、彼の机の前で足を止める。 「こんにちは。何をしてるの?」 彼の手には文庫本。 帰り支度は終わってる。 そして、この教室には彼の物ではない荷物が1つ。 それだけ見れば、安易に想像できる。 「呼び出しをくらった友達を待ってる。それよりキミ、このクラスの生徒じゃないよね?」 彼の表情、声色、仕草。 全てを取り零しなく観察する。 「わたし、アナタにとても興味があるの」 彼の質問には答えず、前の席の椅子を引き、そこに腰を降ろすと、彼は小さく息を吐いた。 「参ったな……。キミに目を付けられるなんて、ツイてない」 そう言って文庫本をカバンに入れる彼の表情は、困っているようにも面白がっているようにも見える。 「わたしの事を知ってるの?」 「もちろん。少なくとも、この学年でキミを知らない生徒は居ないんじゃないかな? 疑問を持つと真実を突き止めなければ気が済まない『探偵少女』の園崎 真実(そのざき まみ)さん」 彼は不敵に微笑んで、わたしの目を見つめる。 自信と好奇心に満ち溢れたその瞳は真っ直ぐで、こちらが視線を逸らしたくなるような強い視線だった。 「じゃあ、わたしがアナタに興味を持った理由も当然わかるわよね?」 「さぁ? さっぱりわからない」 ちょっと困ったように苦笑する姿は、彼を知らない者ならば簡単に信じてしまいそうなほど、自然で真実味を帯びていた。 そう。だからこそ、わたしは彼に興味を惹かれる。
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