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「青春だね」
廊下を歩きながら、双月くんが呟いた。
「何が?」
そう聞き返すと、彼は何とも珍妙な顔をしてみせた。
「何がって……え? 分からないの?」
「だから、何がよ?」
「君は探偵少女の看板おろした方がいいよ。こんな鈍感な探偵居ていいはずがない」
「言っておくけど、探偵少女っていうのは他の生徒が勝手につけただけよ」
「大事なのはそこじゃないよ」
溝口くん可哀想……と双月くんが溜息を吐く。
なぜ彼が可哀想なのか分からない。これは謎だわ……。
「それにしても、溝口くんに信じられちゃったね」
「まるで悪いような言い方ね」
「悪いっていうか。園崎さんにとっては、溝口くんが『2人は付き合ってる』って言った方が早く誤解が解けたかもしれないよ」
……そうだった。彼の言う事は全部下らない嘘だと思われるんだった。
じゃあ反対に、彼が『2人は付き合ってない』と言えば言うほど、事実はねじ曲げられて行くって事?
それは頭を抱えたくなる展開だ。
しかし、嘘吐きと言えば双月くんだって同じ事。なのに、なぜみんな彼の言葉は信じるのだろう。
そうこう考えているうちに、B組へと辿り着いた。
わたしと双月くんが並んで教室に入るのを見て、尾上が面白そうに笑う。
「何だよお前ら、結局一緒か」
「C組に置いて来るつもりが付いて来ちゃったんだよ」
「当然でしょ」
「ほら、言っただろ。園崎は絶対にお前から目を離さないぜって」
「ああ。大輝の言うとおりだった。絶対に『Liar』に興味を持つと思ったんだけどな」
やはり誘導のつもりだったのね。そうはさせないんだから。
「地獄の果てまで追いかけるわよ」
「うわ、何か怖い事言い出したよ」
「諦めろ怜。それが園崎に目を付けられたお前の宿命だ」
「えぇー……」
これまでに分かった事は、双月くんは他人の前では完璧に演じてみせるが、尾上の前だとそれが少しだけ崩れるという事。
幼馴染み故の現象なのだろう。尾上には演じても見抜かれる部分が多いのかもしれない。
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