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自分の教室に入り、鞄を机に置くと、わたしはそのまま隣の教室へと向かった。
HRが始まるまでにはまだ時間がある。
B組の教室の扉を開けると、窓側の1番後ろの席に視線を送る。
そこには、数人の男女が集まっていたが、こちらを見て、待ってましたとばかりに顔を綻ばせた。
このクラスの生徒は、わたしを見ると必ずそういう顔をする。
今ではもう気にもならない。
わたしは、そんな視線を振り切るように背筋を伸ばし、窓側の1番後ろまで行くと、その席の持ち主である『彼』に向かって笑みを見せた。
「おはよう、双月くん」
「ああ、おはよう。園崎さん」
彼はそう言って、穏和な笑みを浮かべる。だが、ダークブラウンの髪から覗く瞳には、暖かさとは無縁の無機質な光が宿っている。
「また来たのか、って顔ね」
「思ってないよ、そんな事」
「顔に書いてあるわ」
「冗談。俺はただ、いつもより早いなって思っただけだよ」
「ウソツキ」
穏和な表情も、穏やかな声も、アテにはならない。
「キミはいつも俺の言葉を信じないね」
「当然よ。理由は、自分の胸に手を当てて考えれば分かるでしょう?」
私の言葉に、彼はくつくつと笑う。
周りから見たら、困ったような表 情。
でも、わたしから見たら、暇つぶしの玩具を見つけたような表情。
彼の表情、言葉、仕草、わたしは全てを疑っている。
否、疑うしかない。
「じゃあ、今日もゲームを始めようか」
そう言って楽しげに首を傾げる彼は、そうーー。
『嘘吐男子』
なのだから。
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