嘘吐男子という人間

3/11
前へ
/25ページ
次へ
その日の放課後、いつものようにB組に向かったが、そこに目当ての人物は既にいなかった。 だが、彼がいつも行動を共にしている親友の、尾上 大輝(おのえ だいき)はまだ教室にいる。 尾上は私が来た事に気付くと、軽く手を上げた。 「よう、園崎。怜ならもう帰ったぜ」 「どうして?」 いつもは、放課後に彼と話をして、彼が並べ立てる嘘を暴いていく、というのが日課になっている。 「今日は親父さんと一緒に会食だとさ」 「彼の父親って……」 「ああ。双月代議士だよ。怜の家は爺さんも国会議員だったから、親父さんとしては当然、怜を自分の後釜にしたいんだろうさ」 「そう。将来を約束されているなんて、いい身分ね」 「本人は迷ってるみたいだけどな」 「なぜ?」 彼の家が世襲政治家ならば、選挙区の地盤もしっかりしているし、政治家になるのも難しくはないだろう。 何を迷う理由があるのだろうか。 「知らなかったのか? あいつの母方の爺さんは、麻生総合病院の院長だ」 麻生総合病院といえば、ここらへんでは1番大きな病院だ。 彼は1人っ子。つまり、病院側としても跡取りにしたい、という事だろう。 「医者か政治家か、という訳ね。ますます、いい身分だこと」 ここまで将来が約束されているからこそ、彼は平気で人を騙す嘘を吐けるのだろうか。 「じゃあ、怜の事も伝えたし、俺は帰るぜ」 「待って。貴方からも話を聞きたいと思ってたの。丁度いい機会だわ」 「……勘弁してくれ」 尾上が嫌そうに顔をしかめるのを見なかった事にして、わたしは彼の前の席から椅子を拝借して向かい合わせに座る。 「貴方と双月くんって、幼馴染みって本当?」 「……ああ、幼稚園から一緒だから、10年以上の付き合いになるな」 逃げ出す事を諦めたのか、尾上は渋々と答える。 「彼、小さい頃から嘘を吐いてたの?」 「いや、昔は全然。むしろ、嘘吐くの下手だった 」 「じゃあ、いつから嘘を吐き始めたの? 原因は?」 「いつからだっけな……。中学の時にはもう、今みたいな感じだったけどな。原因なんて俺が知るわけねーだろ」
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加