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その日の放課後、いつものようにB組に向かったが、そこに目当ての人物は既にいなかった。
だが、彼がいつも行動を共にしている親友の、尾上 大輝(おのえ だいき)はまだ教室にいる。
尾上は私が来た事に気付くと、軽く手を上げた。
「よう、園崎。怜ならもう帰ったぜ」
「どうして?」
いつもは、放課後に彼と話をして、彼が並べ立てる嘘を暴いていく、というのが日課になっている。
「今日は親父さんと一緒に会食だとさ」
「彼の父親って……」
「ああ。双月代議士だよ。怜の家は爺さんも国会議員だったから、親父さんとしては当然、怜を自分の後釜にしたいんだろうさ」
「そう。将来を約束されているなんて、いい身分ね」
「本人は迷ってるみたいだけどな」
「なぜ?」
彼の家が世襲政治家ならば、選挙区の地盤もしっかりしているし、政治家になるのも難しくはないだろう。
何を迷う理由があるのだろうか。
「知らなかったのか? あいつの母方の爺さんは、麻生総合病院の院長だ」
麻生総合病院といえば、ここらへんでは1番大きな病院だ。
彼は1人っ子。つまり、病院側としても跡取りにしたい、という事だろう。
「医者か政治家か、という訳ね。ますます、いい身分だこと」
ここまで将来が約束されているからこそ、彼は平気で人を騙す嘘を吐けるのだろうか。
「じゃあ、怜の事も伝えたし、俺は帰るぜ」
「待って。貴方からも話を聞きたいと思ってたの。丁度いい機会だわ」
「……勘弁してくれ」
尾上が嫌そうに顔をしかめるのを見なかった事にして、わたしは彼の前の席から椅子を拝借して向かい合わせに座る。
「貴方と双月くんって、幼馴染みって本当?」
「……ああ、幼稚園から一緒だから、10年以上の付き合いになるな」
逃げ出す事を諦めたのか、尾上は渋々と答える。
「彼、小さい頃から嘘を吐いてたの?」
「いや、昔は全然。むしろ、嘘吐くの下手だった 」
「じゃあ、いつから嘘を吐き始めたの? 原因は?」
「いつからだっけな……。中学の時にはもう、今みたいな感じだったけどな。原因なんて俺が知るわけねーだろ」
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