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友田はそこまで思い出してやめた。
「ふざけんな」
自覚は多少あるがそんなことないと自分に言い聞かせた。自己紹介は終盤まできていた。
早く終わってほしかった。この空間から出たい。誰からか話しかけられる前にそそくさと帰宅したかった。
「それじゃ、明日から普通に授業なので、教科書忘れないように!」
教壇に立つハゲ教師の名前なんて友田は耳に入ってない。
友田は夜更かしして親が起きないように遊ぶ子供ように物音を立てずに、だけれどすばやくバッグを肩にかける。城に忍び込む忍者のように足音を殺し、教室を去る。
任務成功だ。足早に廊下を歩き、階段を軽く小走りで下りて、下駄箱で靴を履き替え外に出る。やんでいない。友田は行く手を阻む水滴のカーテンをビニールで遮断する。
鬱な気分を吹き飛ばすには今片手に持ってる棒を投げ出し。駆け出そうかと考えた。そんなキチガイ思考ではないなと自分をあざ笑った。
曇天から落ちてくる水素と酸素の結合体を跳ね除け友田は歩き出す。友田の高校は友田の自宅から徒歩15分ぐらいしかかからない。田舎にある特徴がない平凡な高校だ。移動したり、空を飛んだりしない。
昔、超常現象や怪奇現象など起こってない。少し校庭が広いのが唯一の誇りな高校である。
逆に言ってしまえば田舎の高校なんて今時人気ない。つまり、こうゆう高校を選ぶ奴は特別だ。
「早く帰ろう」
友田は自分にいい聞かせ、早歩きになる。多少濡れてしまっても気にならない。シャワーを浴びれば平気だ。
近所の高校なので道は記憶してある。近道も知ってる。
友田宅の真ん前にちいさな公園がある。滑り台とブランコと砂場、ベンチしかない、質素な公園だ。
友田はその公園近くにある十字路まできた。そこから公園は見えるのだが、そこにまたまた異常を見つけたのだ。
さっきの校庭で踊ってた女子生徒と似ている奴がダンスしていた。短髪、紺のカーディガン、学校指定のスカート。
嘘だろ。と思った。そんなはずないと。
雨が視界を軽くさえぎる。水が傘を叩く音が友田を急がせる。
思わず走った。水溜りも気にせず。
雨は嫌いだ。
すべてが邪魔に思えてしまう。春の雨は生暖かい時もあれば、冷たいときもある。今日のは前者だ。
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