エーデルワイス(1)

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「勘違いしないでほしいけど、私、他に男いるから」 部屋を出て行く俺の背中に向かって、女は言葉を投げつけた。振り返りもせず履こうとしていた靴に、自分の足をねじ込む。なんとなくその靴が汚れている気がして、ほこりを手で払った。 そろそろこの靴も捨て時だと思っていた。 「もう連絡してこないで。男にバレるとまずいから」 「分かった」 「…それだけ?」 「最初からそれだけの関係だろ?」 「あたしのことなんだと思ってんの…最低、まじ死ねよ」 背中に降りかかる女の憎悪と恋慕。それをほこりと一緒に払うように、黙って部屋を出た。マンションの前でタクシーを止め、行き先を告げる。疲れた身体をシートに深く沈め、メーターの隣にあるデジタル時計を確認した。 深夜0時。 仕事先から女の家に行き、やるだけやって帰る。それで女が満足するわけもない。 『他に男がいるから』 男がいるかどうかなんてこちらからは何も詮索していない。勝手に話だし、勝手に自爆する、自意識過剰と被害妄想。 そして フタを開ければ荒縄のような図太い神経。ポケットから携帯を取り出し、アドレス帳を開いた。淡いライトに照らされながら、何も思わずその女の電話番号を消した。   必要なものは名前のある誰かではなく、穴が開いてれば誰でも良かった。
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