エーデルワイス(1)

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「ここで降ります」 自宅付近でタクシーを止め、車を降りた。昨日と同様に仕事を終え、女の家に行ってやるべきことをすませた。携帯電話で時間を確認すると、同じく深夜0時になっている。毎日、毎日似たようなことの繰り返し自分でもよく飽きないなと思う。 交通量の多い山手通りから離れ、裏道を歩き、大きな公園へと入った。ここを横切れば自宅マンションまで近道が出来る。まだ残暑が続くものの、涼しげな風が秋の気配を感じ息を深く吸い込んだ。近くには自分が住む高層マンションが見えふと立ち止まり、首を大きく後ろに倒し見上げる。  窓から光が不規則に漏れているその巨大な建物は大きな一枚の壁にも見えて、それは次第に闇に開いた大きな穴に変わり吸い込まれそうだった。 「ちょっと!!」 物思いに浸っていた俺の背後から女の声がした。振り返ると、白いワンピース姿の痩せた女が睨んでいる。女はこっちに向かって歩いてくると、下から顔を覗き込みさらに俺を睨みつけた。 目鼻立ちはしっかりとしていて、気の強そうな顔。美人に入る部類だろうが、化粧気はなく色気もなかった。一瞬、どこかで抱いた女かと思ったが、この顔に覚えはない。 「…俺、何かした?」 「足!」 女は俺の足元を指した。外灯にうっすらと照らされた、薄い土をかぶった地面には、黒い塊のようなものが、十個ほど置かれている。その物体が何か分からず身体を屈めて凝視した。
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