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マンションに帰る前に深夜までやっている近所のスーパーまで連れて行かれ、まっすぐに売り場に向かうと、女は白玉粉とざらめと蜂蜜を手に取り俺に押しつけ「買って」と言った。なんでこんなことになったのか、理解も出来ないまま渋々、会計を済ませると彼女を自宅へ連れて行った。
「何この部屋。サラリーマンだと思ってたけど、こんな高そうなとこ住めないよね?実業家にも見えないし…。もしかしてヤバい仕事かなんかしてるの?」
部屋に入るなり彼女はきょろきょろと辺りを見渡した。
「真夜中に泥団子作ってるあんたの方がヤバいでしょ」とは言えず俺は言葉を飲み込む。それに結構な頻度でテレビに出てる俺を知らないなんて、自尊心が傷つきイラついた声で俺は女に言葉を返した。
「全うな仕事だよ」
「まぁいいわ。私はあんたが何やってても関係ないし。キッチンこっちよね。鍋とボウルはある?」
俺は乱暴に戸棚からまったく使っていない鍋とボウルを取り出しキッチンに置いた。台所はほとんど使わず、綺麗なままだった。たまに女が来て手料理を振る舞われたこともあって、調理器具もどこぞの女が置いていったものだった。
彼女は俺の不機嫌さに気づいていないのか、気にしたそぶりも見せず、手を洗い鍋に水を入れ火をかけた。さっきはいきなり怒鳴られ混乱していたが、明らかにこのシチュエーションはおかしい。夜中に公園で泥団子を作っていた女を自宅に招き入れ、台所を貸している。俺の不信感を気にしてもいないのか、彼女はボウルに白玉粉を入れると、少しづづ水を加え手で練り始めた。
それをじっと横目で監視するように見つめていると、彼女は目線をボウルに落としたまま口を開いた。
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