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「うまい…」
透明の器に丸ためた白玉に、飴色の蜜がかかったそれを口に運んだ瞬間、そう呟いていた。
「寒ざらしっていうのよ。長崎の名物」
「へー、長崎の出身かなんか?」
「ううん、前に旅行に行った時に食べたことがあって」
「ふーん」
喋りながらも握ったスプーンは動きが止まらず、どんどん口の中にその白い玉を口に放りこんだ。甘いものは得意ではなかったが、これは何杯でもいける気がする。小箱は俺の器から一つ白玉を口にいれただけで、それ以上は食べなかった。自分で作ったのに食べないなんて、俺の中で一つの疑惑が浮かんだ。
「もしかして、お前、毒とか盛ってないよな」
「はぁ?何言ってんの」
「いや、よくミステリーで相手に食べさせて…」
「私も灰垣の器から食べたじゃない。それに調理中にずっと横にいたでしょ?いつ毒なんか入れるのよ」
「スプーン自体に毒を塗ったんだな」
「あのねぇ…あんたを殺す理由もないんだけど。それに私は料理研究家なの。食べ物に毒なんか盛るわけないじゃない」
「料理研究家?」
「うん。家に台所がない料理研究家」
テーブルの上に頬杖をつき、小箱は小さくため息をついた。遠くをじっと見つめるその横顔に無言で俺は白玉を口に入れ続ける。
人にはそれぞれ事情がある。それを他人に言うか言わないか、聞くか聞かないかで、関係は少し変わってくるのではないかとも思うが、あえて聞かなかった。
その代わりに「台所ぐらい、いつでも貸してやるよ」と俺は小箱にそう言っていた。
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