第1章

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 腕は折れ、足の腱は切れ、頭はぐわんぐわんと酷い脳震盪を起こしていた。  一歩も動けない、指一本動かせない、考えさえまとまらない。  もうこうなると、半分死んだようなものだと思う。 「っ、く……!」  そんな中、唯一視界だけが確かだった。  だからただ、上方を見上げていた。  広がる空だけを、見つめていた。 「はっ……あ、あぁ……」  そして最後に一息吐き、ぼくは全身の力を抜いた。  気づけば雨が、降っていた。  全身まるで濡れ鼠のようにびっしょりだった。  まさに泣きっ面に蜂、かえるの面にしょんべん――ってそれは違うか。 「なんで、こんなことに……?」 「お兄ちゃんのせいだよ?」  ぼくの独り言に、誰かが答えていた。  しかしそれが誰のものなのかわからない。  それぐらいぼくは、心身ともにショックを受けていた。 「え? あ……そっか? そうだった、っけ……?」  ポツリと呟くと、その声の主は呆れたように笑った。 「なに、お兄ちゃんなにがあったか忘れちゃったのー? 悲しいなー、寂しいなー、辛いなー、そんなんだからそんな痛い目に遭っちゃうんだよー?」  きゃっきゃ笑いながら、ぼくの周りをぐるぐる回る。  無邪気な姿が少しだけカワイらしくて、そしてとても怖かった。  ぼくはなんとかかんとか声を絞り出す。 「そ、んなこといった、って……ぼくはただ、キミが道に迷ってるって言うから、案内しただけじゃ……?」 「間違ったじゃん」  ギクリ、と身体を震わせる。 「そ、それは……実際は間違ったってわけじゃなく……」  それは、つい三十分くらい前の話だ。  下校中、ぼくはあっちにフラフラこっちにフラフラしているこの女の子を見つけた。  どう見ても困っている風のこの子にぼくは”悪習”で声を掛け、屋上に遊技場があるというぼくが幼稚園に通っていた頃に一回だけ行ったことがあるデパートに連れて行く流れとなった。  そして実際に連れて行ってみるとそこには建築中の大きなマンションがカンカンと大きな音を立てており、場所は合っていた証拠として立て看板には移転案内の紙が貼ってあった。  だからそれは間違ったというより、移転していたという事実を知らなかったというだけなんだ。  だから、ぼくに落ち度はなかった筈なのに――
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