第1章

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 入学式で校長からこれからの展望なんて聞かされても、なにひとつ耳に入ってこなかった。本当はもうなにもかも投げ出して悪いやつになれればいいとさえ思っていた。  なのに、なれなかった。  そんな目に遭い続けてもなお、子どもの頃――まだ父親が会社の同僚に麻雀のルールを教わる前、母親が幸せそうに毎日笑っていた、物心がつくかつかないかという頃の思い出が、脳裏に残っていた。  ふたりに、毎日教わっていた。  一日一善。  ひとに優しくしなさい。  ひとに優しくすれば、その人の心も豊かになって、最後にはあなたも幸せになれるのよ。  しかしてその結果として毎日毎日地獄のような日々を送るハメになったのだが、しかしその習慣だけは――悪習だけは、変えることが出来なかった。  無意味だとは思う。  むしろ虚しくなるだけだし、やめられるのならやめたいとさえ思っている。  だけどどうしても、困っている人がいれば駆け付けてしまい、悩んでいる人がいれば話を聞いてしまい、お腹が空いていると聞けば食べ物を分けてしまう。  今日食べる分だってないっていうのに。  そんな自分が呪わしくて、ぶん殴った事だって一度や二度じゃない。  そして今日も、やってしまった。  その善行の結果が、半殺しだ。  ほとほと自分に、愛想が尽きた。  もう、このまま殺されてしまえとさえ思っていた。  そんな時女の子に、言われた。  必然。  思わず笑ってしまった。  その通りだ。  だから確信した。  こんな風に悲惨な目に遭うのも、必然――つまりはぼくが、悪いんだって。  しかし女の子は、こう言った。  そう思うのなら、そうなのだろう。  だからぼくは、応えた。  いや、縋った。  そうしたくなるくらい、その言葉はぼくには天啓のように感じられたんだ。 「運命だ……キミはぼくを地獄のような現状から救ってくれる、それこそまるで、天使のような……」 「そんないいものじゃない」  バサッ、バサッ、とカラスが羽ばたく。  それに伴い、その巨体が浮き上がる。  これほどの超質量が空に舞い上がるという事実に、ぼくは呆気に取られていた。  その背に乗る女の子とのギャップが織り成す雄大な姿が美しくて、ぼくは思わず見惚れていた。 「ゆいは、魔女だから」 「そう、なのか……」  魔女だったら、仕方がない。
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