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 その”箱”は、何の前触れも違和感も存在感も無いままに、僕の目の前に現れた。登校中、通い慣れた通学路での出来事だ。  その”箱”が、ただの”箱”であったなら。例えば何の変哲もないダンボール箱であるとか、よく見るプラスチック製の収納箱のような”箱”であれば、僕は素通りしていたはずだ。いや、素材自体はおそらくダンボールであろう”箱”だった。形だって普通に四角いし、大きさだってみかん箱程度だ。しかし、僕にはその”箱”を無視出来なかった。無視出来ない理由があった。こんなわけのわからない”箱”に関わっている暇は無かったはずなのに。なにしろ登校中なのだ。朝に強いと豪語出来るほどでもない僕に、毎度時間の余裕はあまり無い。  しかし、だ。その”箱”の側面にこんな事が書かれていたらどうだろう? きっと誰もが気になってしまうのではないだろうか? ”箱”の側面には、血のような赤いインクでこう書かれていたのだ。 『颪澤登流(おろしざわのぼる)様。この箱に、【未来の貴方】が入っています』    僕を名指ししている奇妙な文面に、足を止めざるを得なかった。住宅街の中、ぽっかりと出来た空き地の片隅に、その”箱”は置かれていた。見逃しても不思議では無い場所だったし、事実その”箱”に気付いている人はどうやらいない。学校まではすぐそこだから、大勢の学生が歩いているにも関わらず、だ。
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