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和くんを送り出して、鍵を掛けた途端、ポロっと涙がこぼれた。
ギュッと抱き締められた感覚が忘れられない。
でも…
和くんが引っ越してすぐ、病気で仕事を休んだと聞いて、アパートに行った時の事を思い出しす。
明るい茶色の髪の綺麗な女の人がアパートから出てきた。
「お大事にね」
「ありがとう。助かりました」
和くんがコンビニの袋を少し上げて、お礼を言っている。
なんだ…そういうことか。
私は、薬局の袋を握りしめた。
「お見舞いに行こうなんて思わなければ良かった」
家に帰って、乱暴に袋をテーブルに置くと、中から風邪薬やゼリー飲料やプリンがこぼれ出た。
私は、プリンを開けると食べ出した。
和くんが好きなプリン。
本格的な焼きプリンや濃厚なプリンじゃない、お皿に出して食べるプリン。
「プリンはやっぱり揺れないと」
とかいいながら、毎回ゆらゆら揺らして食べてた。
子供みたいなんだから。
引っ越すとき、
「陽菜はいつでも来ていいから」
そう言ってくれたのに、酷いよ。
あの人が来てたの、引っ越してまだ1週間しか経ってなかったのに。
1週間…私には長かったんだけどね。
就職してから、毎日帰りに寄ってくれた和くんが来ないのは、本当に寂しかった。
でも、それは私だけだったんだね。
……もう、やめよ
ソファーに座ると、かすかな温もりと、和くんの香りがした。
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