お母さんの入院

5/8
前へ
/707ページ
次へ
私はゆっくりと本を開けると、読み出した。 初めて絵本を読みきってから、本を読むのは私の役目になった。 私がどんな本を読んでも、お母さんは嬉しそうに聞いてくれる。 「陽菜ちゃんに本を読んでもらうと、縁側で日向ぼっこをしている時ような、幸せな気持ちになるの」 病気で辛そうなお母さんが喜んでくれるのが嬉しく、どうやったら聞きやすいかな?とか、どんな話が好きかな?とか色々考えるようになった。 絵本を読み終わり、お母さんと話をしていると、 「水森さん、検温の時間です」 ノックとともにパソコンの乗ったワゴンを押して、看護師の加藤さんが入ってきた。 「加藤さん、おはようございます。いつも母がお世話になっています」 私が頭を下げると、 「いえいえ。陽菜さん、今日は早いですね」 お母さんに体温計を渡しながら、加藤さんが言った。 加藤さんは、最近増えてきた男性の看護師さん。 私と歳は変わらないみたいだけど、しっかりしてるし、いつも明るい。 「もうすぐ卒業なんです」 「おめでとうございます。式では袴とか着られるんですか?」 質問したあと、ピッと鳴った体温計を受け取り、パソコンに入力する。 「友達と着物をレンタルしようと話してます。袴もいいですね」 「じゃあ急いだ方がいいですよ。早い人は去年のうちにレンタルしてて、ギリギリだと借りれないこともあるそうですよ」 「え?そうなんですか?友達に連絡してみます。ありがとうございました」 「着物姿写真に撮って見せてくださいね。これ、セクハラですか?」 「違うと思いますよ。綺麗に撮れたらお見せしますね」 「楽しみにしてます」 加藤さんは、お母さんにいくつか質問すると、入力して出ていった。
/707ページ

最初のコメントを投稿しよう!

382人が本棚に入れています
本棚に追加