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「お母さんね、結婚式してないから、陽菜ちゃんのウェディングドレス楽しみなんだ」
「私じゃなくて、お母さんたち、今から写真とか撮ればいいよ。お母さんまだまだ綺麗だし」
「お母さんはいいよ。お母さん、陽菜ちゃんの結婚式見れるかな…」
「何言ってるの。彼もいないのに、まだまだ無理だよ。喉乾いたから、ジュース買って来るね」
私は、急いで病室を出た。
中庭まで足早に歩いて、ベンチに座る。
こんな寒い日に中庭にいる人は誰もいない。
コート着てくれば良かったな。
はいいろの空を眺める。
冷たい風が髪の毛を揺らすと、お母さんのさっきの言葉が、耳の中で繰り返された。
お母さんの心臓は、治らない。
これ以上悪くならないように、気を付けるしかない。
「私、お母さんにウェディングドレス見せてあげられるのかな…」
小さく呟く。
すると、後ろから声がした。
「大丈夫ですか?」
声と共に、そっと肩に手が乗せられる。
顔を上げると、加藤さんが心配そうに立っていた。
「大丈夫です」
「こんな所にいると、風邪引きますよ」
「あ、すみません。じゃあ、病室に戻りますね」
多分泣いてなかったと思うけど、動転して、走って病室に戻った。
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