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side 和也
病室から出た時と違う軽い足取りで、病院からさほど離れていない事務所に向かう。
俺が働いているのは、和田勤(わだつとむ) 司法書士事務所という所で、もう3年になる。
和田先生はとても尊敬出来る人で、仕事も色々教えてもらった。
事務所には、先生、俺、その他に3人の司法書士がいて、みんないずれは独立を目指しているが、事務所の居心地が良すぎて、なかなか出ていく気にならない。
人間関係は良好で本当にいい事務所だが、仕事柄残業が多いのは大変だ。
「あら、随分遅かったわね」
「あ、すみません。何かありましたか?」
「大丈夫よ。先生は今日は戻られないそうだから、仕事が終わったら早めに帰るようにだって」
「ありがとうございます」
先輩の滝田(たきた)さんは、事務所に入って7年目で、『30までに独立して結婚する』と公言しているが、先月29歳なり少し焦っているようだ。
「お帰り。何?トラブル?」
「いや、大丈夫」
今声を掛けてきたのは同期の澤田(さわだ)だ。実家が遠く車通勤してるので、飲んだときは俺の家に泊まる。
いつだったか、澤田が泊まった次の日、俺に助けてくれと泣きついてきたことがある。
実は、澤田は滝田さんと付き合ってる。もう1年になるのかな。
澤田が滝田さんに告白した時、
「今更結婚に繋がらない恋愛はする気ないけど、覚悟はあるの?」
と言われたらしい。
そろそろ独立しようと考えていた澤田が「覚悟はあります」と返事したら、「浮気は絶対許さないから」と返されたらしい。
で、話は戻るが、俺の家のシャンプーの香りで、浮気を滝田さんに疑われて、証明してくれと泣きついてきたんだ。
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