好きなのに

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「陽菜、どうかした?香澄ちゃんの具合悪いの?」 「ううん、大丈夫だよ」 笑顔を作って答える。 香澄(かすみ)ちゃんって言うのは私のお母さんで、心臓が悪くて入院してる。 私と和くんの家はマンションのお隣同士で、仲がいい。 「おばちゃん」って呼ばれるのが嫌だったお母さんと和くんママは、香澄ちゃん、美佳(みか)ちゃんと呼ばせてたので、今でも名前で呼んでる。 「今日は、駅前に新しくできたケーキ屋さんでプリンを買って行ったの。お母さん、すごく喜んで食べてたよ」 「そっか。よかったな」 和くんがふんわり笑う。 あ…この笑顔好きだな。アハハハって豪快に笑うのもいいけど、ふわっと優しい笑顔が一番大好き。 「大学はどうだった?」 「ボランティアに行ってるケアハウスの人がね、また本を読みに来て下さいって言ってくれたの。今度は談話室に来れない人にも聞かせてあげたいんだって」 「そっか」 「うん、なるべく沢山の人に聞いて欲しいんだけど、もうすぐ卒業だし」 時計をみると、もう10時になっていた。 「あ、和くん、もう遅いよ。明日も仕事でしょ?帰らないと」 和くんが一人暮らしを始めたのは4月。もう9ヶ月も経つんだ。 初めは寂しかったけど、和くんがいないことにやっと慣れてきた。
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