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陽菜は我慢強い子で、寂しくても顔に出さない。
悲しい顔をすると、両親が悲しむのを知っているから、いつも楽しそうに笑っている。
でも、俺は知ってる。
参観日の手紙は通学路にあるコンビニのゴミ箱に捨てていた事。
香澄ちゃんが手紙を見たら、無理してでも来ようとするから。
俺の母親が無理矢理参加していたけど、やっぱり親が来ないのは寂しかったと思う。
俺が陽菜にしてあげられる事なんて全然なくて、陽菜が悲しかった日にギュッと抱き締めてあげる事しか出来なかった。
あの雨の日、泣いていた陽菜が泣き止んで笑ってくれたから。
その時は、泣いている妹を慰めてあげるくらいにしか思っていなかったけど、
今はこの役を誰にも渡したくないと思っている。
できれば、一生陽菜の側に居たい。
「和くん、ちょっと待っててね」
陽菜が自分の部屋に入って行った。
「はい。これで少しは暖かいよ。茶色だからそんなにおかしくないから」
そう言って、茶色のタータンチェックのマフラーを俺の首に巻き付けた。
「和くん、何着ても似合ってずるいなぁ。今日は来てくれてありがとう」
玄関扉を開けて、軽く押し出される。
「こちらこそ。シチューご馳走さま。
ちゃんと鍵かけて寝るんだよ。チャイム鳴っても出ないでね」
「心配性だな。大丈夫。和くんこそ、気をつけて帰ってね。おやすみなさい」
「おやすみ」
ドアが閉まって鍵の音がする。
いつもなら、俺がエレベーターに乗るまで見送ってくれるのに…とちょっとした違和感を感じたが、特に気にせず歩き出した。
マフラーからはかすかに陽菜の香りがした。
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