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第四章「羅喉星」 参ノ戰
しかし、鋭利な琴の眼差しは、天狗博士を睨んで離さなかった。
修太を胸に抱いたまま、琴は空気を震わせて刀を抜いた。
──きいぃん!
空気が鳴動した。それは琴の剣気か。それとも──
「こ、琴女……?」
「動くな」
怯える天狗博士に、琴は短く告げた。
琴が睨むのは天狗博士の背後、闇が濃い庵の外だった。
じわりと、闇が重くなった。それは闇色の殺気だ。
闇に紛れて放たれた何者かの殺気を、琴は気色で視たのである。
「──敵だ」
刀を握りながら、琴は気色を凝らした。
琴は戦慄していた。隠形に長けた手練れであろうが、これほどに闇と気を同化させるのは並大抵の技量ではない。ざわりと、柄を握る手が粟立った。
「外に敵がいるのか?」
「ああ。畏怖すべき敵だ」
琴だから気づいた気配であった。
たとえるなら、闇色の絹糸を一筋、また一筋と、宙に漂わせた気配である。
その織られた闇糸の気配に、わずかな殺気の染みを視たので琴は気づいたのである。
(──試されたわけだな)
盆の窪を凍らせながら、琴は不敵に笑った。
敵は極微の気配を漂わせて、庵のなかの者を物色したのだ。
それは禽獣の習性である。歯応えがある獲物かを吟味する、それは肉食獣の戯れであった。
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