第一章「赤い雨」 壱ノ戰

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(我はこの匂いを、良く知っている) 琴の黒い隊服に、わずかな血の染みがあった。 樹々を撫でる光風が流れて、琴が纏う血臭をうすめた。 掌に羽毛の重さを感じて、琴は眼を開いた。 その羽毛の重さは、夢幻の記憶だと思っていたからだ。 子供が、そこにいた。 小さな手が、琴の隊服をつかんでいた。 神職のような白衣で、浅黄色の袴をはいていた。 琴は驚いていた。子供の気配が”視えなかった”からだ。 「我に用か?」 琴は子供に訊いた。 子供は答えなかった。 歳は六つか七つであろうか。男の子である。 無垢な幼顔が、恐怖に曇っていた。腰をつかんだ手が、細かく震えている。 「むっ」 琴は声をあげた。 白衣の袖に、血の跡が残っていたからだ。 琴の隊服にある染みと同じ葡萄色の染みだ。 見ればそれは、子供の血ではなかった。誰かの血を浴びたのだ。 ふと眉根を寄せて、琴は子供から視線を移した。 深い森の奥から、血痕と同じ濃い影が疾走って来たからだ。 踏む葉の音もわずかに、黒い影が近づいてくる。 「どちらにしても敵か」 琴はつぶやいた。
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