第一章「赤い雨」 壱ノ戰

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黒い装束の男が四人、琴と子供を囲んだ。 琴と同じような黒い隊服である。 口元を隠すように巻いた黒布が剣呑だ。 三本足の烏が描かれた印を、上腕に縫い付けてあるのが印象についた。 それに刀を差している。銃は持っていない。 「渡してもらおうか」 正面の男が言った。 「敵か? 味方か?」 琴は問うた。 山百合の花から凝視されたように、男が目を瞬いてたじろいだ。 「子供を、渡してもらおうか」 再び、男が言った。 「獲物は我ではなく、この童子であったか」 琴は微笑んだ。 男たちが一斉に鯉口を切った。 花が咲いたような琴の微笑みが、男たちのなにかを刺激したのだ。 琴は許せなかった。 女子供を弱者だと見做す輩が、琴は心底嫌いだった。 腰にしがみつく子供の震えが、胸に宿る義心に火をつけたのだ。 「頑是ない童子に、男が徒党で来るか?」 「なにっ!?」 男たちが刀を抜いた。 「銃ではなく、刀で来るか?」 再び、琴は微笑んだ。好ましいものを見るようで、それでいて凄然な笑みだ。 「侮るかっ」 「避けられぬか?」 戰いを、である。 「臆したかっ」 「ならば、是非もなし」 琴は刀を抜いた。
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