第一章「赤い雨」 壱ノ戰

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「抵抗するのか!?」 「我は中沢琴だ」 琴は名乗った。 男たちの殺気が膨れあがる。 「……知っているぞ、その美貌。江戸で評判だった新徴組の中沢琴だな」 新徴組の中沢琴── 天保十一年頃(一八四一)に、中沢孫右衛門貞清の娘として生まれる。 父は上野国利根穴原にある利根法神流剣法の道場主だ。その父から法神流を伝授され、やがて父をも凌ぐ剣士に成長した。 幕末混迷の文久三年(一八六三)兄の良之助とともに、庄内藩預かり江戸市中取締警護の新徴組に参加した。 琴が江戸市中の見回りをするときに、男装だと娘達に言い寄られ女性の姿だと男達につきまとわれて迷惑したと云う。 慶応三年(一八六七)徳川慶喜は大政を奉還して征夷大将軍を辞職、新政府に恭順した。 それによって新徴組は、領地に帰る庄内藩士とともに奥州に入った。 庄内藩の藩主である酒井家は、神君家康の四天王と言われた酒井忠次の子孫である。 そのような事情もあり、庄内藩は新政府から朝敵とみなされた。 ゆえに新政府軍が東北地方に進撃して来たとき、会津藩同様に庄内藩も徹底抗戦しか道は残されていなかった。 それを討伐するために新政府は、奥羽鎮撫軍を派遣した。
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