第1章

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俺は今、〈ヴァライルの森〉から出たことを深く後悔している。 人間の目からするとダークエルフは性奴隷並みに美しく邪悪で軽蔑すべき存在なのだ。 俺は母さんの手を振りほどき、死に物狂いで真夜中の森を走り回った。裕に2時間は走ったと思う。 母さんの姿は無かった。 俺を見放したのかと考えると胸に熱い物が込み上げて来て、こんな歳で涙ぐみそうになったが、俺はレイチャーやマックスへの同情心で自分を慰めた。俺は外の世界を歩く権利がある。その点、レイチャーやマックスはダークエルフの森で毎日、団栗合戦や追いかけっこや川渡りぐらいのチャチな生き方しか出来ない。 俺は特権を得たのだ。 満足感と疲労が重なって、俺は芝生の上で寝た。芝生だけでない悪臭が漂っていたが、気にならなかった。それ程疲れていた。 馬糞と隣合わせでその晩、寝た。 月は半月で星々が輝き、綺麗だと思った。 芝生は軽い素朴なシャツ越しに肌をチクチクと痛みつけたが、不思議と心地良く眠れた。 長年の夢が叶った。 俺はただ単純にそれを喜んだ。そんな無邪気さを人間達は軽蔑しているとは、その時の俺は何一つ分かっちゃいなかった。 『森の外に出てはいけません』 もうあの厳しい声が聴けないのが、少しだけ寂しかった。
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