0人が本棚に入れています
本棚に追加
カロラは俺の痺れた手首を引っ掴み、俺を無理矢理立たせた。
足を躓きそうになりながら、辿り着いた先は白い高級ホテルのようなBARだった。絵本の世界だった。
カロラが俺の背中を軽く叩く。
「着いたぞ、ザック」
俺はボヤいた。
「ザードかザックスって呼んで下さいよ、悪徳馬主」
カロラは愉快そうに笑って俺にピースサインを送った。
「上手く立ち回れよ。後、カロラ・バートラの使いだと名乗るのを忘れるな。でないと、ワシがお前をもらう」
俺は怖くて仕方無かった。だが、身動きが取れないのをよく学んでいた。どこに逃げてもエルフの容貌は相手を魅了させる。ガングロの肌も白い髪も大抵の人間は持ち合わせていない。
俺は〈シェイクスピア〉に入った。
〈シェイクスピア〉の奥にいるママの小柄で華奢だが、感情がないかのような雰囲気に圧倒された。
まるで黄色い棘だらけの薔薇のようだ。
綺麗だけど、今まで見たことがないぐらい冷たい。
だが、声はやんわりとした甘さで聴き心地が良かった。
「今日は大物ね。誰の使い?」
俺は何をされるか考えながら、やはり馬鹿正直に答えた。
「カロラ・バートラ」
ママはフフと不敵に笑った。
「バートラには奮発しないといけないわ。だって私、君のこと〝商品として〟とても気に入ったもの」
最初のコメントを投稿しよう!