第1章

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カロラは俺の痺れた手首を引っ掴み、俺を無理矢理立たせた。 足を躓きそうになりながら、辿り着いた先は白い高級ホテルのようなBARだった。絵本の世界だった。 カロラが俺の背中を軽く叩く。 「着いたぞ、ザック」 俺はボヤいた。 「ザードかザックスって呼んで下さいよ、悪徳馬主」 カロラは愉快そうに笑って俺にピースサインを送った。 「上手く立ち回れよ。後、カロラ・バートラの使いだと名乗るのを忘れるな。でないと、ワシがお前をもらう」 俺は怖くて仕方無かった。だが、身動きが取れないのをよく学んでいた。どこに逃げてもエルフの容貌は相手を魅了させる。ガングロの肌も白い髪も大抵の人間は持ち合わせていない。 俺は〈シェイクスピア〉に入った。 〈シェイクスピア〉の奥にいるママの小柄で華奢だが、感情がないかのような雰囲気に圧倒された。 まるで黄色い棘だらけの薔薇のようだ。 綺麗だけど、今まで見たことがないぐらい冷たい。 だが、声はやんわりとした甘さで聴き心地が良かった。 「今日は大物ね。誰の使い?」 俺は何をされるか考えながら、やはり馬鹿正直に答えた。 「カロラ・バートラ」 ママはフフと不敵に笑った。 「バートラには奮発しないといけないわ。だって私、君のこと〝商品として〟とても気に入ったもの」
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