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「なんや、兄ちゃんそういう趣味なんか」
「趣味というか、あの」
肩を掴んだ手は力が抜けた。
誰も何も言えなくなったこの空気
ふと気が付くと、千草が男の背後に立っていた。
「あの。」
「なんや、姉ちゃんもコイツのツレか」
「彼女」
「それがワシになんの用じゃ」
柄もののスーツの裾を引っ張って
大きな男に膝を曲げさせて耳打ちする千草
何を言っているのかは知らないが
男の眉間に皺が寄り
微妙な表情に変わってゆく。
「この兄ちゃん、変なシュミ持っとるんやな…」
「でも安全」
「風呂屋よりは幸せかもしれんが…」
何を言ったのか知らないけれど
俺に向けられた目は憐れむように変わる。
ずいぶんとかわいそうなものを見る顔だが
きっと千草は事実を伝えたのだと信じて
俺は何も言わずに苦笑いを返す。
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