2人が本棚に入れています
本棚に追加
大地がずしんと震えた。思わずたたらを踏んで、真っ黒な雲を見上げる。
目指す山に、稲妻が突き刺さった。
「ありゃ~落ちたな」
担いだ虫捕り網を揺すりながら、わくわくと走り出す。龍神山には、珍しい虫がいると聞いたのだ。
いつもは近寄りがたいお山も、今日は宝の山に見えた。
さっそく近くの大木に駆け寄って、うろを覗きこんだ。
「何してんだ?」
「うわぁっ」
いきなり背後から声をかけられ、飛び上がって振り向く。
見知らぬ男の子が立っていた。
「おっどろいたぁ……お前誰だ?」
「ちょっと下りて来たんだ。なぁ、一緒に遊ばないか?」
「いいぞ。遊ぼうぜっ」
長い夏の日が暮れるまで、いっぱい遊び回った。
空が茜に染まる頃、また遠くで遠雷が鳴るのが聞こえた。
「あっ……父ちゃんが迎えに来る」
「帰るのか? また遊ぼうなっ」
「うん。ばいばい」
あいつは顔中で笑いながら手を振って、山を登って行った。
「あんた、何言ってんの。あの山は神さんの物だから、住んでる人なんかいないよ」
母ちゃんに頭をひっぱたかれて、首を傾げる。
はて……じゃあ、あいつは誰だったんだ?
それはある夏の思い出。
最初のコメントを投稿しよう!