2人が本棚に入れています
本棚に追加
中天にかかった丸い月が、煌々と青白い光を投げ掛けている。
迷路のような広大な庭園。風はわずかに空気を乱すだけで、辺りは薔薇のかぐわしい香りで満ちていた。
「アリス。お茶の準備が出来たわ」
どこからか若い女の声が響き、応えるように薔薇の茂みががさりと揺れる。
月光に青く濡れ光る真っ白な薔薇を両手に抱え、ひとりの少女が現れた。
「今日はとっても月が綺麗ね。マリア。薔薇がこんなに甘く薫っているわ」
いつの間にか用意されたテーブルに、少女が薔薇を生けると、馥郁たる香りが弾ける。
椅子に腰掛けた少女の前に女がカップを置く。夜気に芳醇な紅茶の湯気が混じった。
「うさぎさんは、こんな素敵な夜も飛び回っているのね」
「探求者は変わらず、聖杯を求めているわ。忙しないこと」
二人は庭の彼方をよぎる影を眺め、くつくつと笑いあう。お皿のクッキーを摘み、少女は首を傾げる。
「叡智の記憶は、ここにあるのに」
さくっと軽やかな音を立てて、少女はそれをかじった。
最初のコメントを投稿しよう!