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庭先の朝顔が軒先まで伸びている。青々とした葉影を眺めながら涼んでいると、ちりん……ちりちり……風鈴の風雅な音が聞こえて来た。
「ああ……いいねぇ」
口元を綻ばせ暫くその音色に聞き惚れていたが、近付いてくる風鈴売りの声を契機に、浴衣の裾を捌き腰を上げた。
草履をつっかけ、庭を横切り裏木戸を開ける。
「お兄さん、ひとつおくれ」
「はいよ。どれがいいんだい」
売り子の男がてぬぐいで汗を拭いながら、立ち止まった。
屋台が揺れ、風鈴が一斉にちりちりと鳴る。硝子が真夏の光を弾き、七色に煌めいた。
「ああ……本当に美しいねぇ。その青い朝顔のをおくれ」
「これだね。毎度」
売り子にお代を渡して礼を告げると、風鈴を片手に揺らしながら庭へと戻る。
軒先の朝顔にさぞかし良く映えるだろう。
涼しげな目元に微笑を掃くと、満足げに煙管をふかした。
「さあ、夏が始まるよ」
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