忘却の遺跡

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   細く音も無く、霧のような雨が降り続く。  あちこちが崩れ、太い柱には蔦が絡みつき、祭壇は苔むして……  かつて栄華を極めた王が築いた神殿は、今はただひっそりと森の中に沈んでいる。  神殿の奥の薄闇で白い影が揺れた。 「我が王……捜しましたよ……」  安堵と哀愁の混じった吐息を漏らすと、影に向かって手を差し伸べる。  しかし伸ばされた手は虚しく、湿った空気を掻いただけだった。 「王……貴方はいまだに囚われているのか……」  もはや遠い(いにしえ)の時代、共に栄光の道を歩んだ友は、失われた栄華の遺跡に今もしがみついていた。  力無く腕を垂らすと、うなだれた視線の先に、ジュースの空き瓶を見つける。  打ち捨てられたそれは一点の曇りも無く、美しかった。  そっと空き瓶を拾いあげると、柱を伝い落ちる雨で満たす。  手折った一枝の野薔薇を瓶に挿し、祭壇の片隅に置いた。  霧雨に煙る神殿を見上げると、顎を伝って雫が滑り落ちる。  それは濡れた髪から滴る雨の雫か……それとも……  全てを静かに森が飲みこみ、雨が包み隠してゆく。  真実はいまだ忘却の遺跡の中。  
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